7歳のオス犬、名前がケンジロー、毛が薄くなってきたと来院しました。首、腹部の脱毛と光沢の無いパサついた全身の毛、そしてオスなのに乳首が大きく、皮膚が黒ずんでいます。去勢手術してないのに、あるべき場所に無い睾丸。腹部を触診するとミカン大の腫瘤に触れます。陰睾といって精巣が陰嚢内に下降せず腹腔内などに留まっている遺伝的病態のようです。若いうちに睾丸を摘出しておけば良いのですが、放っておいて腹腔内に長くあると睾丸が悪性腫瘍になることが多い病気です。これは精巣のセルトリ細胞から発生するセルトリ細胞腫が多く、エストロジェンという女性ホルモンを分泌するためオスなのに女性化を起こすようになるのです。ケンジローの脱毛と腹腔内の腫瘤はまさしくこのために起こっている状態です。詳しい検査の結果、幸いに転移、貧血などがまだ起こっていないため、さっそく癌化した睾丸を摘出しました。セルトリ細胞腫の結果、腫れた前立腺の一部と摘出した睾丸を念のために病理検査に送ります。結果は予想通りの病理診断でしたが、悪性の為これからも経過観察はしていかねばなりません。でも春頃までには元のフサフサした毛のケンジローにきっと戻ることでしょう。陰睾の犬は症状が出ないうちに早く去勢手術を受けることが賢明だと考えます。
左が腫瘍化してない睾丸、右がセルトリ細胞腫の睾丸
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